絶望的アンティミスト

意図してないのだけど、わたしは結構誰かと2人きりな状態が好きで、そのようにしてしまうことが多い。みんなもそうかしら。どうかしら。
別に3人とか大人数が嫌なわけではないんだけど、例えばクリスマスの集まりが夫の実家であってみんながテレビを見ている時に、お母さんと2人で洗い物をしながら話すのとか、そういう時間が大好き。
子供の時も、おばあちゃんと2人きりとか、妹とわたしだけの夜とか、幼馴染と2人でプレハブで遊ぶとか、好きだった。プレハブにもう1人来ると、微かに興醒めという。
この傾向は昔は気にしてなかったけど、最近自覚して、キモくて心底嫌だなと思っている。
この心理は謎だけど、たぶん、相手がわたしを無視出来ない点がポイントな気がする。2人きりなら、相手を尊重せざるを得ないでしょ。
夫と違う男の人と2人きりはなかなかないし夫に面白くない状況はわたしも全く面白くもないんだけど、女の人の場合は俄然2人になってみたいと思ってしまう。お爺さんとかなら男の人でもいいのかも。とにかく恋愛みたいな混じり気を排した、人間の興味があって、あわよくばわたしにはそっと教えてほしいというキモい気持ちがある。かなりよこしまで気味悪いというか趣味悪い。でも多分わたし女の人を取り込むの上手な方だと思う。男で頭よければ太宰治になれたかも。男に生まれていたら今よりさらにどうしようもなかったんじゃない。

さてそんなキモいわたしなんだけど、「そうそう、そうなの」「わかってくれる人がいるとは」のワードを相手から引き出しては「ウフフ」と返している。全力でわかろうとしてかかっているので、相手の話がピンとこないことはまずない。嘘もつかないしフリもしない。でも人間的なエネルギーとしての距離感みたいなものを、スッと詰めてくる得体の知れない女が、不快な人は確実にいるはず。その時はよくても負担に感じることもあると思う。
なので最近はドライな空気感を大事にして、グッと寄りたくなってもカリフォルニアの風を脳内に吹かせて、我慢している。
わたしにとってこれはめちゃくちゃ不自然な態度なんだけど、みうらじゅんも「自然体より不自然体。気に入ってもらうように不自然体で行こう」と言ってます。それを僕滅運動というらしいよ。

ただもう既にグイグイ寄っちゃった人はゴメンて感じで、とにかくその人の都合のいいように居たいと思っている。僕滅運動じゃないけど。
お互いに気分のいい距離が変動制で存在していて、それを欲に任せて縮めてしまうのはナンセンスだ。縮めてしまってもいい瞬間に、控えめにノックするくらいが丁度いいんだと思う。そんでわたしは、そういう瞬間はあまりぞんざいにしたくないなと思う。
要するに家族や仲のいい誰かが淋しい時とか心細い時とか愚痴を聞いてほしい時とかに、放ったらかしにしたくない。
失礼千万な付き合い方で傲慢でよくないのは確実なんだけど、だって興味あるし、味方だし、そのことを知っててほしいと思ってしまう。ま、みなさん知ってると思いますし、わたしの性質もバレバレだとは思う。
なので今現在付き合いのある人たちは、ご愁傷様って感じだけど、彼女らとしてもわたしのどうしようもなさを見抜きつつある程度楽しんでくれてはいるだろう。多分。


昔友達と2人でお茶をしていて、わたしはテンションが上がっていらんことを喋りまくり「私はあなたのカウンセラーじゃない!」と言われたことがあった。
この怒られは、人生で一番心に響いた。そんなこと言ったら彼女はびっくりすると思うけど。
自分の事をあけすけに話すのは相手の負担になること、相手にも聞いてほしい話が同じ分量かもっとあるはずだということ、相手を尊重できなきゃ人と付き合う資格がないこと、とか色々一気に体の中に実感として降りてきて、すっと重力と体重が一致した。当たり前のことなんだけど、わたしは体感として全然わかっていなかった。怒ってくれた彼女には感謝している。
彼女は今でも友達。嬉しい。

 

わたしはホントはみんなのカウンセラーになりたいんだと思う。みんなの秘密が知りたい、悩みが知りたい、可愛さが知りたい、汚さが知りたい。
でも関わるなら責任を持たなきゃいけない。それはかなり体力がいるよ。
わたしは脱力して生活したいので、よこしまな気持ちは捨てて、真に優しい気持ちでいたいと思う。何気に1人遊びも大得意なので、できそう。まだ上手くはいかないけれど、でも出来そう。
だけど誰かがちょっと詰まってて、栓を抜きたいなって時に、それを抜くのがわたしでも大丈夫そうなら、ポンと引っ張って「大丈夫だよーん」と言う役目、やりたいかも。
まだまだ滅私には遠く、僕滅運動はうまくいかないのであった。


アンティミストという語がほんとにあるのかは謎だけど、近代美術におけるナビ派の中のボナールとかを親密派と言うんだったはず。ボナールみたいな室内やごく身近な家族の情景を窓からの光と陰で描いていくような絵をアンティミスムと言う。はず。(うろ覚えです)
ボナールはずっと妻マルトだけをモデルに描き続けた変わった人で、しかしマルトちゃんも1日の大半を浴室で過ごすという変わった人です。よって浴室の裸婦の絵が多いし、それらの絵がわたしは一番好きです。