てんとう虫とタナトス
夏は気軽に生きられて、気軽に死ねる気分がするけれど、冬は清潔な気配の分、死が重い。
肉体が腐ることとか、皮膚から体液が出ることとかに親近感が持てない。虫や鳥の死骸が落ちていないからだろうか。
実際はヒートショックだとか餅を詰まらせるとか肺炎をこじらせるとか、冬だから死んじゃうことも沢山あるし、そんなの年がら年中一緒なんだけど。
何故でしょう、死が重く生が重く、肩が凝るよ。
重いのに、内臓にも、逆むけのチクチクにも、セーターの毛玉くらいの不快感があるだけで、唯の違和感だ。漂えない。
困る。
寒いのには参る。人間にも冬眠があれば良いのに。
最近、我が家には小さな来訪者がある。先日は2名、合計6名程、出窓の桟や床で発見された。
てんとう虫なんだけど、赤いのではなくて、黒地に赤の点々がある。
インターネットで調べたら、赤のてんとう虫は寿命が2ヶ月くらいだけど、黒いのは2-3年生きるので、暖かい場所で群れで冬越えをするらしい。(結講ゾゾっとする写真が沢山出て来た。)
今日、暖かい場所とは人間の家である。テレビの裏のコンセントの近くとかに黒く密集して、冬中じっとしているみたい。どうも我が家は候補地として下見が入っているようだった。
Yahoo!知恵袋によると、てんとう虫が家で冬越えしていた時の対処法は、暖かく見守ることなんだそう。悪いことはしないっぽい。
あー、早くてんとう虫が群れで押し寄せて来ないかな。
100均で毛玉取りブラシを買った。冬服は毎年全然新調しないので、何年も同じセーターを着て毛玉が物凄いことになっている。
さっそく、よく着るボロボロの2着の毛玉を取った。『家賃が安いから九龍城に住んじゃった人』がゲストのテレビを見ながら、無心にブラシをかけると、黒いセーターから山盛りの毛玉が出てくる。
てんとう虫の群れってこんな感じかもと思いつつ、汚水が上階から落ちてくるという90年ごろの九龍城の話を興味深く見た。
香港も冬は寒いのかな。
コーヒーがなみなみのマグカップを手に床に座り込むと、ようやくホッとひと心地ついた。寝る前のコーヒーは良くないけれど、冬の夜を泳ぎ切るにはゴールが必要だ。
もうなんか泣きそうだけど、涙も毛玉やてんとう虫と同じで、違和感だけが残る。
正月休みまであと少し、頑張って仕事に行くよ。