鏡台の小物を整理した。化粧品に消費期限があるのか私にはわからなかったが、ひび割れたアイシャドウや濁ったプラスチックの色々は、もう使うべき時期のものではないと思った。それらを容器ごと捨てて、片方しかないピアスや錆びた腕輪もゴミと見做した。木彫りのキリストの祭壇も捨てた。貰い物のシャネルのマニキュアも捨てた。
 窓辺にモンステラを置いている。葉っぱが陽に透けて、葉脈が血管のように伸びているのがわかる。モンステラの葉は巨大だ。少し、怖いと思った。霧吹きで葉に水を遣る。葉脈を見ていると、見れば見るほど無限に分岐していくように思えた。
 たとえば私に脳の病気がなかったとしても、今月何か意味のあることをするのは無理そうに感じる。どのみち、どん詰まりだった。

 先生は十万人に0.03人の珍しい病気だと言った。先生の親指は頻回の消毒で皮が剥けている。マスクをしているので目元しかわからないけれど、ネットで検索して見た顔写真では、なんだか顔のパーツが真ん中に寄っている印象だった。十万人に0.03人がはたして何人に1人なのか、どうでもいいと言えたし、だけどどうしてそんな中途半端な数字で示されるのかもわからなかった。多分、十万人のほうの比重が高いのだろうけど。
 病院はいつも室温が高い。病人は寒いのだろうか。パジャマ姿の女性がカラカラと点滴を連れて歩いているのを見て、モンステラの葉脈を思い浮かべた。
 帰りにコロッケを買った。私は買い食いをするのが好きで、コンビニでチキンを買ったり、マクドナルドでコーヒーを買ったり、とにかくそういうテイクアウトをよくするのだけど、その中でもコロッケとたい焼きはかなりお気に入りだ。あと焼き芋。いーしやーきいもーの声が聞こえてきて、お財布を持って走らない人が信じられない。
 知らないうちに春が来るのだと思う。春が来たなと思ったら、もう冬は忽然と姿を消していて、素敵で白い雪の代わりにものすごく凶暴な風が吹いたりする。それでキムチ鍋も煮込みうどんも、おでんも石焼き芋もどこかへ行ってしまう。春は正直苦手だ。桜味のお菓子も苦手だ。さくらなんとかフラペチーノだって、そんなにいいと思わない。
 どうしたらいいか。いつでもうまくやれないし、やりたいことはなかった。戦争の気配がして、それだけ悲しい。ゲームはあまりやらないから、全然上手くならない。モンステラを見上げながら床でゴロゴロしていると、爪が伸びているのを発見した。爪を切る。