豚とキャベツ

足が細かったことなんて無かった。

わたしは食べることが好きだ。逞しいでしょ。
コンプレックスを凌駕する食欲に動かされ、仕方なく台所に立つ。
どうしても今夜ロールキャベツが食べたい。


キャベツの葉が一枚まるまる必要なので、玉で買う。いつも半個のラップに包まれているキャベツしか買わず、なんならカット済み野菜ばかり使っている身としては、丸一個のキャベツを持ち帰るのは少し新鮮だ。キャベツくんを思い出す。
ロールキャベツはロールする工程までが絶妙に面倒で、まずはキャベツを下茹でしなくてはいけない。

鮮やかに浮かび上がる葉を眺めながら煙草を吸うのはいい気分だ。

今日はトマトで行こうと思い、フライパンに敷き詰めた上にホール缶をぶちまけて煮ることにした。わたしのテキトーな巻きで、大体数個は崩れるので、それを見込んで多めに用意する。
案の定煮崩れていく黄緑の物体を監視しつつ、もう一服した。挽肉をどうこうする料理は、ギトギトのボウルやトレイの洗い物が付きまとうのが嫌だな。
組み合わせに全くセンスがないけど、叩きキュウリも食べたいし、慌ただしくて参る。
結果的にロールキャベツは無事胃に収まった。なんだかんだで2時間くらいかけたけど、食べるのは5分だ。労力は儚く散り、満腹と自己満足が満ちる。

食後に先月分の支出を確認すると、スーパーで使うクレジットカードの引き落とし額がえらいことになっていた。エンゲル係数が高すぎだ。そんなの算出しないけど、一目瞭然だよ。
寒いので暖房を入れまくっていて、湯船も張るので光熱費も相当にマズイ感じである。
暖かく満腹で暮らすために、クソみたいな仕事がんばろ。クソみたいなことしかしてないのに、多少お金をくれるのが今の仕事の不思議なところだ。

クソみたいな仕事をする仕事場には、素敵な同僚がいる。
翌日ウンコみたいな気持ちで仕事に行くと、隣の席のマダムが、次男夫婦の家に遊びに行くのに手料理を持っていく、挽肉が大量にあるけど餃子かハンバーグか迷っている、という相談をしてきた。昨日ロールキャベツを食べました、と言うとマダムは、それがいいね!簡単だし!と言った。
キャベツ茹でるとか玉ねぎ微塵切りにするとか結構面倒くさくないですかと尋ねると、まあね、と言う。
やっぱりマダムはすごいなぁ。
わたしはマダムの選択肢と料理へのカジュアルな姿勢を参考に、残ったキャベツで餃子を作ろうと思うよ。

夫はわたしの料理で不味かったものがない、と言う。優良な発言だ。
餃子を作るのは、半分彼にやらせようと思う。休日の夜までに、羽根のつく焼き方を調べておきます。

わたしの人生初発の『大きくなったら何になりたいか』は、「ピンクの豚さん」だそうで、それは多分キャベツくんに出てくるぶたやまさんのことだと思う。長新太の絵本の影響力に感心しつつ、この辺りは畑だらけなので、春にはキャベツ畑も見られそうだなと考えた。
列に並んだキャベツの前でブキャ!と言いながら、畑のキャベツを買ってみようかな。
今回のロールキャベツの中身は、合挽き肉が高いので、オールぶたやまさんで作りました。