シルエット/シガレット

20日前、煙草をやめた。なるべくもう吸わないようにしたいのだけど、それでもわたしは煙草が好きだ。本当は寝る前に1本だけ、とかそういう付き合い方が出来れば理想的だけど、なんだか中毒か依存症なのでそれが出来ない。お金も、昨今は吸う場所も無いので、何度目かの禁煙をしている。

わかばとエコーとゴールデンバットが販売廃止になる。わたしは長くわかばを吸っていた時期があるので、少し淋しい。

煙草にも喫煙者にも思い出がある。マルボロの友達、母のピアニッシモ、マイセンの同僚、パーラメントのあの子やアメスピのあの人。わたしはポールモールとウィンストンが好きだった。夫がラッキーストライクを吸うので、わたしもこないだまではラッキーストライクを吸っていました。

 

そう言えば昔、ガラムを吸うおばさんがいた。カウンセリングに通っていた病院でバスを待っていたら、赤い車に乗った知らない女性に、駅まで送ってやると言われた。彼女は宝石を身につけていて痩せていて品があったけれど、それでも一目見て狂人だった。わたしは赤い車に乗ることにして、すると車内は甘ったるい煙が満ちていた。女性はガラムで良かったら吸う?と尋ね、わたしはガラムを初めて吸った。若干の異国情緒が、女性の訳わからなさをプラスの方向に演出しており、赤い車の中のおばさんはとても魅力的だったように思う。スピード違反なんじゃないかと思うような荒い運転も、ガラムで煙に巻かれて気にならない。わたしはガラムのおばさんを好きになった。そんな風に何度か駅まで送ってもらって、今でもガラムを見かけると、名前も忘れたおばさんを思い出して、赤い車でぶっ放す道なりの、街路樹と平坦な建物を少し懐かしくなる。嘘もののような気配、怪しくて甘い、インドネシアの煙草。タールが30mg位あった気がする。

そんな思い出はいくらもあるんだけど、わたしは整理してあらかた捨ててしまおうと思っている。煙草と一緒に、おさらばしよう。でもどうせわたしは数ヶ月もするとまた煙草を吸うだろう。わたしの禁煙は断続的で、つまりは意志が弱い。でも別にいいと思っている。そんな感じで過去の思い出もたまに嗜む程度にすれば、害ではないのかもしれない。まあまだ一カ月も禁煙してない人間が、何を言うって感じですけど。