散髪/濃厚接触

緊急事態宣言が出ても、仕事は普通にあったので、平日は出勤してそれ以外の時間は鬱で寝ており、別にいつもと変わらない生活を送っていた。少し前に処方された抗うつ剤が結構良くて、起きている時は少し元気だった。

 

ゴールデンウィークも、友達に1.2人会うくらいで、例年別に何もしていないので、家から出るなと言われてもとくに不満はなかった。仕事で外に出ていたし、自粛疲れも無く、むしろ#ステイホームのあれこれのインターネットの投稿に憧れを抱いていたので、遂に私もステイホームだわと思って張り切って引きこもることにした。やりたいことは沢山あった。

結局、やりたいことの2%(しかも本当は全然やりたくない家事)をして、あとは殆ど寝ていた。その中で唯一楽しかったのは、散髪である。美容院も概ねやっていなかったし、いつもお願いしている所が遠いので、自分で切ることにした。もともと私は金欠だったりすると自分で切ることがあるが、今回はショートカットなので少し緊張した。失敗したら坊主になり得る。

薬局で染髪剤を買って、髪も染める。いつも何処かしらに脱色している箇所があるので、染髪は自分でやらない。ほぼ高校生ぶりだと思う。洗面所にチラシや新聞を敷いて、ゴミ袋をかむりハサミを持つと、俄然いける気がしてじゃかじゃかと豪快に切ることができた。その勢いでお風呂にも入って、ここ数日鬱すぎて入浴が出来なかったので、本当にさっぱりとした気持ちになった。染髪もしたので1日で二回も入って、ふらふらした。

夫は様子を伺っていたが、私がなんとなく上手く髪の毛を収めているのを見て、自分も私に散髪してほしいと言った。私は前々から隙あらば彼の頭のモジャモジャにハサミを入れたいと思っており、男に二言があると困るので、速やかに準備し、キッチンの隅は即席の美容院となる。夫はつむじが複数あり、台風の目のような襟足で見る者を惑わせるが、他人事なのでどんどん進む。どうせ在宅勤務で人にも会わないし、思い切り短いほうが快適であろうと考え、そのようにした。彼は多少注文をつけてはきたが、概ねされるがままに切られていた。夫はかなり天パなので、適当に切っても癖に紛れてそれっぽく見えるので、簡単な気がする。以前にも一度切ったことがあって、その時は韓流スターっぽくしたのに天パに負けてスター期間が短かったので、今回は顔の印象が「豆みたい」となるように、小顔に沿って短く切り揃えた。私は夫の今の髪型はかなり可愛いと思う。豆みたいで。

例年ゴールデンウィークに会う遠方の友人が居て、そのひとと会えなかった事が残念だ。他のやりたかったことをせずに延々と寝ていたことも、詰まらないと思う。私がステイホームをキラキラ過ごせずに終えたことについてクヨクヨしていると、豆の夫が、「カレンダー通りのただの休みじゃん」と言って、確かに、と思った。

連休明けに、夫は会社のウェブ会議に参加したらしい。とくに髪型については何も言われなかったようです。


散髪をするキッチンのはしっこは、光が満ちて、おままごとみたいな夢みたいで、レモンサワーの缶を片手に、どうしようもない救われない人間が2人で、髪を切ったり切られたりしているのは、世界で今ここだけ、まごうことなき濃厚接触者だよって感じで、ラブリーだった。