Covid-19

 東京は夏日が続く。春の終わりに突然に訪れる、数日の暑い日がすきだ。刹那的で、ぬか喜びで、それは初夏の気配を連れているのに、ぽたぽたと雨粒が落ちてきて、夢の終焉まであっという間の焦燥感がある。「一瞬の夢」という中国映画があるけれど、そういう仕方がなさ。季節に対応するのは理不尽に面倒だし、なぜ自殺してはいけないのかわからない。だけれど他人が自殺すると、死んだら駄目だ、と思うので私はちゃんと屑だ。

 新型コロナウイルス感染症が流行していて、国内は緊急事態宣言が発令されており、ゴールデンウィークは「ステイホーム週間」とされている。終日半袖で過ごせるような陽気の中で、外に出られないことが残念かと言うと別に全然、個人的には問題がない。私は基本的に仕事以外は平時よりステイホームしている。仕事で電車にライドオンして、五人くらい殺害しないとソーシャルディスタンスなるものが取れないところで労働し、疲れて免疫が落ちるのは別にオーケーとされているのがよくわからない。私は専門家(最近、専門家というものにも懐疑的になってしまう)ではないので、よくわからないけれど、がっちり生活保障をして早期からロックダウンを行い短期で収束させるのか、スウェーデンのような共存方式をとるか(しかしそれには徹底した検査やもともと存在する福祉基盤が必要だと思う)、どっちつかずで、どっちも中途半端に形ばかり取り入れるから、何もかも奏功しないのが、かなしいけれど私の生まれた、私や家族の暮らす国だ。中国で感染が始まってから、日本と環境の近い韓国や台湾が合理的な工夫を色々と行なっている間、日本には猶予があったのに、それを利用せずに今を迎えており、現在も日々感染者が出ている。東アジアの国の施策には無関心そうに見えるのもよくわからなかった。

 そもそもクールジャパンはダサすぎるし、カルトにはまる首相夫人は実社会に居たら精神病院で鎮静かけたほうがいいし、首相は政治をはき違えているように見える。それらは以前からある問題で、酷いことは羅列するとキリがないけれど、本当に酷いから許せない時もある。赤木さんみたいな人が役人というものではないのだろうか。利権、それも長期的な展望があるのではなく、せいぜい今年とか来年とか再来年とかそんなレベルのお金と権力の算段が、文書の改竄(国家として一番許せない)や、コロナ対策での稚拙さを生んでおり、国民は防衛機制として感覚を鈍麻させて、免疫を保っているように感じる。ところでアマビエって何ですか。

 まず正直申し上げて、私はもともと今の政権がセンス的に苦手であり(ダサいから)、今回も「自粛」という言葉を聞いてため息がでた。憲法上、強行なロックダウンが出来ないことは知っているし、そのこと自体を悪いとは思わない。(なので今現在、不十分に思える周知と議論のなか憲法に無理くりに緊急事態条項を盛り込もうとしているのは悪徳だと思う。)日本では「自粛」はリモート出来ない立場の出勤以外かなり厳密に守られていると思うけれど、「自粛」の半分くらいは「粛正」であり、その中の半分くらいは「粛清」のニュアンスを帯びている。人間が何でもコントロールできるという信条もどうかと思うけれど、ホームレスの人やネカフェ難民の人や外国から来た難民の人みたいに話題になっている立場の人達以外にも、社会から透明人間にされている人は沢山いる。「おうち時間」「一致団結」などと言われても殺意しかわかないか、何も気持ちが起こらない人はいるし、人間には事情がある。事情が無くても、ただ自粛できない人がいたって仕方ないと思う。夏日が訪れたあとに冷たい雨が降る仕方なさを、皆受け入れているけれど、そういう自然のことと同じに、人間は同じではない。しかし人権は、いつでも、どこでも、誰にでもなのである。人間は同じではないが、協力はできる。でも協力は強制ではないはずで、重症者や死者、自殺者や困窮者を減らしたいのであれば、まず私たちは寛容になる必要があると思う。武漢封鎖下の中国の女性作家が公開した日記に、「その国の文明の高さを表す指標は(中略)弱者への態度である」と記載があるのが、ネットで紹介されていた。

 私は文明が発達した、格好いい日本が、東京が、見てみたい。透明人間を見たい。


 ファックなアベノマスクが届かない。ネットにリメイク方法が結構載っているので、楽しみにしている。あとは給付金について、いの一番に手をあげて、夫にマイナポータルから手続きさせようとしたら、サーバーダウンだった。くそったれ。夫は後日再チャレンジしてくれたが、電子署名の期限が切れているという謎なエラーで出来なかった。私の住む自治体では、郵送で申込書が来るのは五月下旬以降らしい。振り込みは夏になりそう気がしてきた。給付金くらい簡素に手続きさせて、あげ過ぎたとか富裕層とかは確定申告で調整すればいいのではないかと思うが、こういうところも本当に何も考えていなさそうで嫌になる。これではきっと雇用調整金や保育園の休園・学校の休校の保護者の有給保証も似たり寄ったりのいけてなさなんじゃないかしら。困窮者は増える。自殺者も増える。私だって感染する。治安も悪くなる。無敵の人だって出てくるだろう。

 先日、新宿で女性の物乞いの人に声をかけられた。「ごめんなさい、お金をあげられない」と言ったら、「300円でいい」と言われた。本当にごめんなさい、と言うと女性は、じゃあまた今度お願いね、と言って別な人に声をかけていたが、見向きもされていなかった。私は目があったのだから、300円渡せばよかったのに、渡さなかった。300円で終わらないんじゃないか、とかそういう心配が過ぎったのだ。生活保護はおそらく十分に機能していない。私だって生活保護費を割るんじゃないかというような給料で働いている。そんな人は大勢いるし。私も透明人間に近づいていて、足元は消えかかっている。

 マスクをして消えかけた足で歩く街には、透明人間がちらほらと姿を現す。