卵とケチャップ

料理上手な人を尊敬する。テレビなどで見る、ちゃっちゃとオムライスを作って彼氏に出す女、それも尊敬する。

初めてオムライスを作った。無性にオムライスが食べたく、ついでにわたしはオムライスなんて軽く作れますということを自分と夫にアピールしようと思った。
普通に出来たんだけど、決して手軽でもないことがわかった。結局玉ねぎは微塵切りだし、肉も切るし、ケチャップライスと卵は別のフライパンだし、1個ずつしか作れないし、食べる時間に合わせてやらないといけないし。オムライスだけじゃ足りないし。
そんなわけでオムライスを手軽と思っている人たちはマメで偉い。

母は料理が上手だが嫌いで、台所では常に眉間に皺が寄っている。家事をきちんとする人だけど、家事が嫌いで、晩御飯の調理を含めて家事や雑用は14時までに全て終わらすことをモットーにしている。お手伝いを申し出るも、午前中の母は殺気立っていて、変に手伝わせて余計面倒が増えるくらいなら自分でやりたいと考えているのがよくわかり、結局朝ご飯の用意と洗い物くらいしかしたことがない。
あんなに嫌々作っているのに、ご飯が超おいしく出来上がるのはすごいし、母の愛だと思う。愛は行動です。
ご馳走さまと言うと、「よろしゅうおあがり」と母は言う。

夫のお母さんは料理が上手で料理が好きだ。みんなで集まる時には手作りのご馳走が並ぶ。料理の難易度が高すぎるので、わたしはここでも結局ニンニクの皮をとるとか、解凍の様子を見張るとか、洗い物とかしか出番がないんだけど、夫のお母さんは朗らかに料理をするので楽しい。ピザを2人で作っていたら、小麦粉と間違えて天ぷら粉を撒き始めたので指摘すると「みんなには内緒にしてて」と言うので笑った。お母さんの天然ボケは、たまに息子や娘達からは厳しく注意されちゃうのを、わたしも見たことがあるから。ピザの時はその他にもすっ飛ばしている工程とかがあったんだけど、別にいいだろと思って黙っていたし、焼き上がったピザは絶品だった。

母はオムライスは生活に非合理的だと判断していて、作ったことがない。母が飲みに行ったりする時に父やわたしが料理をするんだけど、父はオムライスを作ってくれた。あんな薄皮なオムライスは見たことが無い。父は変に器用な人で、卵を2個使う発想は無いのに、なんだかちゃんとご飯を包んでしまうのだった。

さてわたしは初のオムライスをチーズ入りで作った。賞味期限切れのスライスチーズが2枚あった。
夫のオムライスにこれみよがしにケチャップでハートマークを描いて出す。彼はすぐさまハートマークをスプーンで平に伸ばして食べ始めた。
食後に、オムライスあんまり好きじゃないけどとても美味しかった、と言う。オムライス、好きじゃないんだって。
わたしはなんだか可笑しくて、「よろしゅうおあがり」と言いながら米粒を飛ばしてしまった。