鼠/アルコホリック

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2020年になった。年度が変わったことにも、だらしがない生活にも、冷たいコンクリートにも、間延びしたお正月休みにも、なんだかさっぱり、私はうわの空だ。喜怒哀楽についてもうわの空で、抗うつ剤が効いてきたのではと思う。とはいえ私の人生は大部分がうわの空だ。昔、何でも解離で片付けちゃう医者がいたけど、うわの空と解離は少し違うと思う。けど解離性遁走とカルテに書かれている時も、私はうわの空で別なことを考えていた。別な場所、別な時間、別の人間のことを。

 

子年で、私は歳女だ。ネズミは3回しか見たことがなくて、どれも俊足で驚いた。何故か途中でネズミは立ち止り、おかげでネズミであることが認識できる。彼らは茶色くて、大きくて、いかにも雑菌にまみれていそうで、私は世界史で習った中世のペストの大流行を思い出した。野良のネズミは一向に可愛くないが、強くて速い。ある程度の量感があり、ミミズのような尻尾を生やしている。そんなの常識だけど、実際にドブ(ドブで見たからにはドブネズミなんだろうと思う。濡れていて、とても大きい。)や、スーパーの前や、天袋で見たネズミ達は、うわの空の私をハッとさせて現実に引き戻すパワーを持っていて、それは生々しいけれど美しく、不潔だけれどラブリーだ。

晦日と元旦は夫の家族と過ごした。1人でお酒を飲んだ。12月からずっとお酒を多目に、かなり、毎日飲んでいるかも知れない。薬を飲むタイミングが難しくなるので、無計画な飲酒は良くないのだけど、とにかく飲んでいるあいだは飲んでいられるので、それで飲んでしまう。それでも私は、仕事が始まれば多分減らすだろう。私はアルコール中毒にはなれない。

Twitterでアル中の若い人の動向を見ている。私はお正月などのハレの日の雰囲気と入浴にアレルギーを持っているので、正月の特番のテレビを尻目に、アル中の女の子が2円しか持ってないのに家出して元旦に警察に保護される様子とかを追いながら、特番にもアル中にもうわの空で、チューハイのロング缶をぐびぐび飲んだ。レモンサワーは王道だけれどおいしい。私はアル中にも重度のうつにもならない程度に、君の笑顔が自分に向けられたものだと知ってしまう程度に、優しくなりたくて誰も見捨てない何も捨てないと決める程度に、屑です。

 

冬の外気は鋭く澄んでいる。透明だ。透明は正しさの色。冬は綺麗だから、居心地が悪い。ドブネズミみたいに美しく、私はなれない。冷たい世界の暗い空を見上げると、満天の星がゴージャスに瞬きした。スピカも北斗七星もシリウスも、カッコいいよね。だけどアルコールの海をうわの空のボートで渡って、薬を飲み込んだその先に、ドブネズミの私が居たらいいなと切実に思う。

缶チューハイを取りに冷蔵庫を開けると、正しくて寒い冬の王国があって、私はちょっとさみしくなってしまい、夫の名前を呼んだ。カッコよくない。私は真人間を手放せなくて中途半端に酩酊する屑だけど、お正月のお節の盛り付けは上手に出来たと思います。夫の作るお雑煮は関東風でおいしくて、餅を詰まらせて死ねたらと思ったけど、私はドブネズミになるまで、生々しい尻尾を当たり前に何食わぬ顔で振り回して、ダッシュでどこにでも行けるまで、今年も死なない。死なない。死なない。

 

絶望と愛のドブネズミになって、うわの空で雪の中を駆け抜けて、正しく君にキスしたい。