向かい合わせの夜

今日は渾身のおでんを煮込んだ。

おでんは時間がかかる。大根にしっかり味が染みて、さあ食べようかという頃には21時半だった。

 

夫はちくわぶが好きだという。あとつくねだって。関東人め。わたしはちくわぶがどんなものか曖昧だったのだけど、ちゃんとスーパーに沢山売っていた。

出汁は適当に作るので、関東風ほど味が濃くもないけど、関西風ほど色が薄くもない中途半端な風合いになる。いつもお正月に夫の母があご出汁のパックをくれるので、このおでんで使い切ることにした。

 

器に山盛りのおでんを食べながら、『美術館の隣の動物園』という90年代の韓国映画を見た。

特になんの感動もないラブコメだったし、昔から気になっていてようやく借りた理由は、タイトルが好きだからだけだ。

それでも映画は結構面白かった。ヒロインの着ているベストが可愛いかったし、赤い窓枠や黄色い傘、会話のやりとりがよかった。他人と暮らす時のちょっとしたすれ違いもリアルだと思う。

それに少しだけ、『猫が行方不明』みたいなフランス映画っぽさもある。

わたしはアジア映画によくあるシーンの中ではダントツで、テーブルで向かい合わせの男女がラーメンを食べているシーンが好きである。カップヌードルや小鍋に作ったインスタントラーメンやジャージャー麺を、ボソボソと会話しながら食べるところは、いいなと思う。だいたい夜中で、こっそりしっかり生きている感じと、その夜一緒にラーメンを食べる人がいることの心強さに、わたしは嬉しくなる。

 

 

空になった器と、眠ってしまった夫と、映画のエンドロールを順番に眺めてから、缶に残ったビールを飲み干す。上出来な金曜日。満腹でクタクタだ。

アイスクリームを買っておけばよかったと思い、閉じそうな瞼の隙間から時計を見ると、じきに金曜日は終わってしまうみたいだった。

この秋にとりあえず一回、おでんをたらふく食べた夜があったことは、わたしの生活の良い1ページである。おでんの夜とか、インスタントラーメンの夜を、生きてきたことは、これから生きていくのに何か力になるかもしれない。